業務指導の場所、時間の長さ、時間帯等について東京地判平 22.8.25・池袋労働基準監督署長事件を見てみたいと思う。

【事案】
部下Xは、OA機器について顧客からの問い合わせやクレーム、注文等の電話対応業務を行っていたが、その電話対応のまずさから2次・3次クレームが発生しており、上司Yが通常業務終了後の午後7時30分頃から、午後11時30分ごろまで、「1分は60秒なのを知っていますか。」「小学校ではどう教わったの。」といった意地悪いとも取れる質問をして指導し、最後には、「黙秘権の行使は犯罪者のすることだ。」と言って怒鳴ったりした。
同年8月23日、うつ病、睡眠障害と診断され、本件精神障害は、N社及びB社における長時間労働、B社におけるパワハラ及びセクハラ、特にYからの見せしめ的で屈辱的なやり方での長時間にわたる陰湿な叱責などにより発症したものであるとして、労働基準監督署長に対し、労災保険の休業補償給付請求を行ったが不支給けっていとなり、審査請求・再審査請求もいずれも棄却の裁決を受けたため、取消を求めて本訴を提起。
【判旨】
通常業務の終了後、Yから業務に関し注意、指導を受けているもので、この翌日から原告がうつ病を発症していることからすれば、これが本件精神障害の直接の契機になっていると推認される。なるほど、通常の終業時刻後に執務室という他の同僚にも目に付く場所において、約4時間という長時間にわたって注意・指導を行うことは通常の指導の仕方とはいい難く、また暴力的な態度でもって叱責したわけではないにしても、「1分が60秒なのを知っていますか」とか、「小学校でどう教わったの」というやや意地悪ともとれる質問をしていることからすれば、Yが原告に対しかなり感情的になっていたと考えられ、その指導の仕方に全く問題がなかったとはいえない。しかしながら、電話応対の対応やワークタイムの短縮といった指導内容自体はごく一般的なものであり、同僚もYが無理難題を言っているのではない旨述べていることからすれば、その注意、指導の主要な部分が不合理であるということはできない。むしろ、原告が、Yの指導に対し長時間沈黙を続けた頑な態度が約4時間にも及んだ原因であると認められる。結局、同日のYからの注意、指導につき、その心理的負荷を過大に評価することはできないというべきである。
その他原告は、上司からパワハラ、セクハラを受けた旨主張するが、原告作成に係る書面においても、主に男女間の雰囲気に対する不満の類が多い。

本件は労災認定の取消訴訟で、精神障害の発症につき業務起因性を否定したものであが、 パワハラにおける業務指導の場所、時間の長さ、時間帯等の限界事例を示してくれていると思う。

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