業務指導の必要性と相当性の相関関係(労働者の属性や心身の状況)仙台地判平25.6.2岡山県貨物運送事件(1審)事件を見てみたいと思う。

【事案】
運送会社の新入職員亡Aは、荷物に傷をつける、伝票の入力を間違えるといったミスがあり、同じようなミスを繰り返すこともあったため、仕事に対して几帳面で厳しく、誰に対しても細かく指導していた上司Y1は、亡Aがミスをした際に、「何でできないんだ。」「何度も同じことを言わせるな。」「そんなことも分からないのか。」と叱責していた。Y1は、まれではあったが、亡Aのミスが重大であった際には、気持ちが高ぶり「馬鹿。」「馬鹿野郎。」「帰れ。」という言葉を発することもあった。
自殺の前日、亡Aが酒臭さをさせて出勤したため、Y1が「お酒を飲んで出勤し、何かあったり、警察に捕まったりした場合、会社がなくなってしまう。」「そういった行為は解雇に当たる。」などと強く叱責した翌日、亡Aが自殺した。
【判旨】
Y1が亡Aに対して叱責していたのは、亡Aが何らかの業務上のミスをした時であり、理由なく叱責することはなく、叱責する時間も5分ないし10分程度であったこと、また、Y1はすべての従業員に対して同様に業務上のミスがあれば叱責しており、亡Aに対してのみ特に厳しく叱責していたものではなかったこと等に鑑みると、Y1の亡Aに対する𠮟責は、必ずしも適切であったとはいえないまでも、業務上の指導として許容される範囲を逸脱し、違法なものであったと評価することはできない。
飲酒したうえで車を運転して出勤したという亡Aの行動は、社会人として相当に非難されるだけでなく、Y社が運送会社であるということからすればY社の社会的信用ををも大きく失墜させかねないものであったのであるから、上記の様にY1が亡Aに対して厳しく𠮟責したことが業務上の指導として許容される範囲を逸脱し、違法なものであったと評価することはできない。

このようにして1審はY1の責任を否定した。これを不服として、控訴したのであるが、判断が真逆となった。業務指導の必要性と相当性の相関関係を考えるうえで思慮に値すると思うので、次回控訴審の判旨を紹介したいと思う。

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