業務指導の上司と部下の関係・職場の環境(上司の個性)等について福岡高判平 20.8.25・長崎・海上自衛隊事件を見てみたいと思う。
【事案】
上司Y1から、作業手順の取得に時間がかかり、基本的事項の理解が遅かったりした部下Xに対し「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ。」「お前は覚えが悪いな。」「バカかお前は。三曹失格だ。」などの言辞があり、上司Y2からXに対し、「ゲジ2が2人そろっているな。」、「百年の孤独要員」との言辞があり、またY2がXやXの妻を自宅に招待した際、Xの妻の前で「お前はとろくて仕事ができない。自分の顔に泥を塗るな。との言辞があった
【判旨】350万円の慰謝料
(1)他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は原則として違法となるが、その違法性の判断に際しては、平均的な心理的耐性を有する者を基準として客観的に判断されるべきこと、(2)使用者は、労働者に対し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うこと(安全配慮義務)をそれぞれ一般論として示殺した
まず、上司Y1のレンジャー入隊適格に関する発言(「「お前なんか仕事もできないのに、レンジャーなんかに行けるか」)は、Xを一方的に、殊更に誹謗するとの態度に出たとしか評価できない。また、Y1は少なくとも9月中旬以降、殊更にXに対し「お前は三曹だろ、三曹らしい仕事をしろ」、「覚えが悪い」、「バカかお前は、三曹失格だ」などの言辞(本件行為)を用いて半ば誹謗していたと認めるのが相当である。そしてこれらの言辞は、それ自体Xを侮辱するものであるばかりでなく、経験が浅く技能練度が階級に対して劣りがちなXに対する術科指導に当たって述べられたものが多く、かる閉鎖的な艦内で直属の上司である班長から継続的に行われたものであるといった状況を考慮すれば、Xに対し、心理的負荷を過度に蓄積させるようなものであったというべきであり、指導の域を超えるものであったといわなければならない。
Y2がXに対し「ゲジ2が2人揃っている」、「百年の孤独要員」、「お前はとろくて仕事ができない」と言ったり、士長に対する指導として丸刈りにしたといった話をしたことが認められる。しかしながら、Y2とXは乗艦中には良好な関係であり、Xは2回にわたり自発的にY2に焼酎を持参したこと、Y2が返礼の意味を込めてX一家を自宅に招待したこと等からすれば、客観的にみて、Y2はXに対し好意をもって接しており、Y2の上記言動はXないし平均的な耐性を持つ者に対し、心理的負荷を蓄積させるようなものであったとはいえず、違法性を認めるに足りないというべきであり、国家賠償法上違法な言動であるとはいえない。
不適切な発言でも、かたやパワハラを肯定し、一方はパワハラを否定する。そこには上記(1)の基準で判断で分かれる。
業務指導においていかに、普段からのコミュニケーション重要性が理解できると思います。
この記事は私が書きました
三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。