前回に続き業務指導の必要性と相当性の相関関係(労働者の属性や心身の状況)仙台高判平26.6.27・岡山県貨物運送事件(控訴審)事件を見てみたいと思う。

【事案】
運送会社の新入職員亡Aは、荷物に傷をつける、伝票の入力を間違えるといったミスがあり、同じようなミスを繰り返すこともあったため、仕事に対して几帳面で厳しく、誰に対しても細かく指導していた上司Y1は、亡Aがミスをした際に、「何でできないんだ。」「何度も同じことを言わせるな。」「そんなことも分からないのか。」と叱責していた。Y1は、まれではあったが、亡Aのミスが重大であった際には、気持ちが高ぶり「馬鹿。」「馬鹿野郎。」「帰れ。」という言葉を発することもあった。
自殺の前日、亡Aが酒臭さをさせて出勤したため、Y1が「お酒を飲んで出勤し、何かあったり、警察に捕まったりした場合、会社がなくなってしまう。」「そういった行為は解雇に当たる。」などと強く叱責した翌日、亡Aが自殺した。
【判旨】
亡Aは、新入社員として緊張や不安を抱える中で、本件自殺の5か月前(入社約1か月後)から月100時間程度かそれを超える恒常的な長時間にわたる時間外労働を余儀なくされ、本件自殺の3か月前には、時間外労働時間は月129時間50分にも及んでいたのであり、その業務の内容も、空調の効かない屋外において、テレビやエアコン等の家電製品を運搬すること等の経験年数が長い従業員であっても、相当の疲労感を覚える肉体労働を主とするものであったと認められ、このような中、亡Aは、新入社員にまま見られるようなミスを繰り返してY1から厳しい叱責を頻回に受け、本件業務日誌にも厳しいコメントを付される等し、自分なりにミスの防止策を検討する等の努力をしたものの、Y1から努力を認められたり、成長を褒められたりすることがなく、本件自殺の約3週間前には、Y1から解雇の可能性を認識させる一層厳しい叱責を受け、解雇や転職の不安を覚えるようになっていったと認められるのであり、このような亡Aの就労状況等にかんがみれば、亡Aは、総合的にみて、業務により相当強度の肉体的・心理負荷を負っていたものと認めるのが相当として、Y1の責任を肯定した。

労働者の属性や心身の状況により、業務指導の必要性と相当性が変わってくるということが見て取れる判決である。
一昔前の根性論での業務指導はパワハラになるため、意識の変革が必要である。
当事務所でもハラスメント研修を行っていますのでハラスメントでリスクを感じている経営者の方はご相談ください。

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