御社の労務管理に、労働者派遣法の考え方を取り入れて可能性を広げます。社会保険労務士法人HRMの森井拓也です。

表題の件、敢えて(笑)としています。誤解されては困るのですが「派遣労働者が人間扱いしないのか!」なんて意味ではないからです。侮蔑的な意味はなく、良くも悪くもそういうものです。

そもそもでいえば、労働者派遣法は派遣労働者のための法律ではありません。ここ、すごく大事な点でして、正社員と派遣労働者で、労働者の権利について差が生じることを労働関連諸法令が許すはずがありません。

労働者派遣法は、許可を受けた労働者派遣事業者が自社で雇用する労働者を他社(個人事業主もありえます)に送り込むビジネスのための法律になります。すなわち、労働者派遣事業者のためなのです。

ある労働者派遣事業者様との会話で、こんなことがありました。

長年の付き合いのある派遣先が、急な納期の関係で一時的に人手を確保する必要に迫られた。そういった条件もあって、どうしても単価が高くなってしまった。その結果、長年現場を支える当社の派遣スタッフよりもずっと高額な新人スタッフが来た。そのせいで、当社の派遣スタッフが強い憤りを抱えてその対応に苦慮しているんですよ。

働く立場でいえば、人間として当然の感情なのですけど……。

労働者派遣法の立場としては、派遣労働者は「派遣事業者様が保有する商品」と言わざるを得ません。例えば飲食店で、急な宴会で50人分を用意する必要があって、それを普段の仕入先からは確保しきれなくて、一見の仕入先から高い値段で仕入れざるを得なくなった。食材(肉や魚や野菜ですね)は人間ではありませんから、食材が拗ねて質が劣化するなんてありえないのですが……。派遣スタッフは定義こそ商品ですけど人間です。モノと同じにはいきませんよね。

上記のような場面でも、労働者派遣法には人間味はありません。派遣労働者同士の値段の差なんて、労働者派遣法は想定していないです。じゃあ、こんな理不尽がまかりとおっていいのか!。労働者派遣法だけをいえば、申し訳ありませんが泣き寝入りですね。

話はこれで終わりというわけではありませんよ。前に申し上げた「労働者派遣法は派遣労働者のための法律ではありません」なのです。

派遣先からみての派遣労働者も、労働者派遣契約に基づいて「使用権を得た」のです。労働者は奴隷ではありません。何をしてもいいわけはありません。他人を指揮命令(言いなりに従わせる)にあたって守るべき法律があります。

人間の使用権を行使して、何らかのトラブルを生じさせた以上は、使用者責任は問われます。

使用者として、指揮命令下においた派遣労働者の扱いを誤れば、労働者派遣事業者との契約上の責任が生じます。そして、使用者責任は労働基準法に基づきますから、好き勝手なことはできません。

結果として、長年いる派遣労働者が派遣先に不信感を持ち、派遣先が人を使用するにあたって何らかの失態があり、そのせいで派遣労働者は派遣元との雇用契約の解消を申し出たとします。それは、派遣元からみれば「派遣先のせいで派遣元は損害が生じた」と主張する余地は生じます。

とはいえこれは、事業者同士の見解によりますので、不一致であれば訴訟によるしかありません。実際のところ、事業者間の関係性をどうしたいかで、本気で法定で争うかは経営判断と言わざるを得ません。

この辺は、労働者派遣法は関与しないです。すなわちどちらか一方に肩入れすることはありません。そういう法律の構造にはなっていないです。事業者間で法廷闘争となりますと、契約の履行と責任を巡る、ごく一般的な争いにすぎないということです。

この記事は私が書きました

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