少子高齢化が進む日本社会において、育児と介護の両立支援制度は企業の必須課題となっています。
2022年4月・10月の法改正をはじめ、政府の後押しにより「育児休業を取得しやすい職場づくり」が進んできました。
しかし最近では、“取得しやすさ”に加えて、「取得後の働き方」や「制度を活用した後のキャリア」まで見据えた運用が求められています。
本記事では、取得しやすさの“その先”にある、両立支援の真の課題と実務対応を社労士の視点で掘り下げます。
Contents
【1】取得率アップは本当に「使いやすくなった」のか?
近年、男性の育児休業取得率がようやく10%を超えたことが話題となりました。
特に大企業では、制度の整備や職場の雰囲気づくりが進み、「取りやすさ」が確実に改善されつつあります。
しかし、その裏には次のような“モヤモヤ”が潜んでいます。
- 取得後に「キャリアが停滞するのでは」という不安
- 実際に戻った職場で“戦力外”扱いされるケース
- 介護離職を防ぐ制度があるが、利用者がほとんどいない
- 「短時間勤務=責任のない仕事」の扱い
取得できることは「入口」にすぎず、本質は「復帰後も長く働き続けられる環境をどうつくるか」にあります。
【2】“育児・介護を理由に諦めさせない”組織設計とは
制度を活かすも殺すも「職場の意識」と「人事制度の柔軟性」次第です。
企業が陥りやすい落とし穴を以下に整理します。
■ キャリア形成の断絶
育児休業を取ると、昇進・昇格から外される、重要なプロジェクトに関われないなど、「静かな降格」が行われる企業もあります。
■ 管理職の無理解
制度を利用しようとした部下に、「今は忙しいからやめてくれ」と発言してしまう上司も…。これはハラスメントにあたる恐れもあります。
■ 評価制度の硬直化
育児や介護による短時間勤務社員に対し、成果が出しにくい職務しか与えられず、正当な評価ができないというケースも散見されます。
こうした状況を打破するには、以下のような施策が有効です。
- キャリア支援と両立支援を並行して実施(メンター制度など)
- 短時間勤務でも成果が出せる職務設計とKPIの見直し
- 利用者の体験を共有する社内事例の公開
- 管理職向けのマネジメント研修(両立支援対応)
【3】今後の課題は「介護」への備え
今後より深刻になるのが、“介護離職”の防止です。
厚労省の調査では、年間で約10万人が家族の介護を理由に離職しているとされており、40〜50代の中堅社員の離脱が企業に大きな打撃を与えています。
介護支援については法制度が整備されている一方で、本人が「介護はまだ先の話」と思っているうちに突発的な介護が始まるケースが多いため、早期の情報提供と職場内の意識啓発が重要です。
- 介護休業制度や介護休暇の社内周知
- 勤務地・時間の柔軟な変更制度の整備
- 社内イントラネットでの介護情報の提供
- 社会保険労務士など外部専門家の活用
まとめ
「取得しやすい制度」は第一歩に過ぎません。
これから企業が向き合うべき課題は、制度を利用した社員が長く、やりがいを持って働き続けられる“キャリア継続支援”です。
育児や介護のライフイベントは誰にでも起こり得ます。
企業として、そのリスクに備え、制度・評価・風土を見直すことこそが、持続可能な組織づくりへの鍵となるでしょう。
社会保険労務士法人HRMでは、育児・介護両立支援制度の見直しから、就業規則整備、評価制度の再構築まで、幅広くご支援しています。
人を大切にする会社は、社員からも社会からも選ばれます。ぜひ一度ご相談ください。
この記事は私が書きました

三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。