2025年10月から全国平均で1,100円を超える見込みの最低賃金改定が目前に迫っています。

政府の方針として「早期に全国どこでも1,200円水準を目指す」という発言もあり、今後も継続的な賃上げが進んでいくことは間違いありません。

この状況の中、中小企業におけるある“問題”が静かに再燃しています。

それが、「名ばかり管理職」の問題です。

「名ばかり管理職」とは?

名ばかり管理職とは、役職名は管理職であるにもかかわらず、労働条件は一般社員と変わらず、管理職としての裁量もないようなケースを指します。

一見すると「昇格している」ように見えても、実態としては権限もなく、時間外手当が支払われないという形で、企業側が人件費を抑えるための“抜け道”のように使われてきた背景があります。

2008年には、大手外食チェーンにおける名ばかり管理職問題が社会問題化し、大きな話題を呼びました。

その後、制度的な是正が進んだものの、ここへきて最低賃金の急激な上昇によって再びこの問題が浮上しています。

なぜ最低賃金が名ばかり管理職を呼び起こすのか?

最低賃金が上がると、企業は時給制のパート・アルバイトだけでなく、月給制社員に対しても実質的な人件費の引き上げ圧力を受けることになります。

このとき、「管理職にしてしまえば、残業代を払わなくて済むのでは?」という安易な判断を取ってしまう企業が一定数存在します。

しかし、これは非常にリスクの高い運用です。

管理監督者の“3つの要件”をご存じですか?

労働基準法上、「管理監督者」として残業代の支払い義務が免除されるには、以下のような要件を満たす必要があります。

 ●経営者と一体的な立場での職務遂行

   → 出退勤の裁量があり、部門の運営責任を持つ

 ●賃金・待遇面で一般従業員と明確な差

   → 基本給・役職手当などに反映されている

 ●勤務時間に縛られず自由な働き方が可能

   → 出退勤の打刻が義務付けられていない等

これらが満たされていないのに「係長」「チーフ」といった肩書だけ与えて残業代をカットするのは、違法行為となる可能性が高いのです。

トラブル事例も続出

実際、弊社に寄せられる相談の中にも、

  • 「月給26万円だが、毎月60時間以上の残業をしても手当なし」
  • 「“管理職だから”とされているが、勤務の自由度は一切ない」
  • 「就業規則上も管理監督者扱いになっていなかった」

といった“見せかけ管理職”による労使トラブルが目立ち始めています。

また、こうした状況が労働基準監督署に指摘された場合、未払い残業代の遡及支払い(最大2年分)+企業名公表のリスクも出てきます。なお、法改正に伴い、未払い残業の時期によっては3年、今後の法律の運用によっては最大5年になることも想定しておかなければなりません。

今こそ必要な制度と人材配置の見直し

人件費の高騰が避けられない今だからこそ、企業は“制度でごまかす”のではなく、職務に応じた評価制度と処遇設計の見直しが必要です。

  • 管理職手当の金額設定は適正か
  • 責任と権限のバランスは取れているか
  • 就業規則に管理監督者の定義があるか

こうしたポイントを精査し、「名前だけの管理職」を生まない体制を整えることが、社員のモチベーションと企業の信用を守る最善策です。

まとめ

最低賃金の引き上げは、企業の体力を試す「改革のタイミング」でもあります。

その中で、名ばかり管理職という制度の“歪み”を放置することは、法的リスクと信頼失墜の種をまくことになります。

社会保険労務士法人HRMでは、等級制度・評価制度・職務設計といった制度構築の支援をはじめ、

労基署対応や是正勧告へのアドバイスも行っております。

“名ばかり”を本物に変える組織づくり、今こそ始めてみませんか。

この記事は私が書きました