2025年、日本の人口構造において大きな転換点が訪れます。いわゆる“団塊の世代”が75歳以上の後期高齢者となり、本格的な超高齢社会に突入します。いわゆる「2025年問題」は、医療・介護といった社会保障制度に限らず、企業の人事・労務、経営戦略にも深い影響を及ぼすテーマです。本記事では、特に企業経営に焦点を当て、想定される課題と今からできる対応策について解説します。
まず最も直接的な影響は、熟練社員の大量退職による技術・ノウハウの喪失です。団塊世代は高度経済成長を支えてきた中心層であり、業務の中核を担ってきたベテラン人材が今後一斉に職場を離れていくことになります。特に中小企業や製造業では、「この作業は○○さんしかできない」といった属人的な工程が残されているケースが多く、技能継承が間に合わなければ、生産性の低下や品質問題を引き起こしかねません。
また、人材の確保難の加速も避けられません。若年層の労働人口は減少し続ける一方、働く意欲のある高齢者は増加しています。しかし、多くの企業では60歳以降の就労を想定した制度が十分に整っておらず、「高齢者に合った働き方」の受け皿づくりが急務となります。再雇用制度の柔軟化や業務の切り出し、就業規則の見直しなど、制度整備が求められます。
さらに、介護離職の増加も企業のリスクです。団塊世代が後期高齢者となることで、現役世代の従業員が親の介護を理由に時短勤務や離職を選択するケースが増えていきます。従業員本人が介護を担うということは、企業にとっても労働力損失に直結します。そのため、介護休業制度の整備、相談窓口の設置、テレワークとの併用など、柔軟な対応が必要です。
では、企業はこの「2025年問題」にどう備えるべきでしょうか。まず第一に、早期の技能継承対策が挙げられます。OJTだけに頼らず、マニュアル化・映像化・複線化を通じて、属人的な作業を“組織知”へと転換する仕組みが不可欠です。第二に、シニア人材の活用戦略の見直しも鍵となります。給与体系や評価制度を見直し、週3日勤務や軽作業中心の再配置など、柔軟な働き方を設計することで、高齢人材の活力を引き出すことができます。
最後に、人事部門に求められるのは、「高齢化による変化を前向きに捉える姿勢」です。年齢に関係なく誰もが働きやすい職場を整えることは、ダイバーシティ推進にもつながり、若手や女性、外国人など多様な人材の定着にも効果を発揮します。
2025年問題は、企業にとって“危機”であると同時に、“変革”のチャンスでもあります。今後の人事戦略・労務管理のあり方を抜本的に見直すきっかけとして、早期からの備えが求められています。
この記事は私が書きました

三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。