近年、社員によるSNS投稿が原因で労使トラブルに発展するケースが相次いでいます。たった一つの投稿が企業イメージを大きく損ねるリスクを孕んでおり、対応の遅れや曖昧なルールは重大な損害を招きかねません。前回の記事ではSNSによる労使トラブルの実例を取り上げましたが、今回は企業が実践すべき「具体的な対策」と「就業規則の整備」についてご紹介します。

まず、最も基本的かつ効果的な対策は「就業規則や社内ルールにSNS利用に関する規定を盛り込むこと」です。これがなければ、社員の行動を規制する根拠がなく、万が一トラブルが発生しても企業側が不利になる可能性があります。例えば、「業務上知り得た情報を無断でSNS等に投稿してはならない」「会社の名誉・信用を損なう発信は禁止する」といった具体的な条項が必要です。

また、実際に懲戒処分などを行う場合にも、その根拠を就業規則に明記しておくことが重要です。「SNS上の不適切な投稿が企業秩序を乱した場合、懲戒の対象とする」といった記載があれば、客観性と正当性を持って対応できます。もちろん、その内容は社員にも周知し、理解させる必要があります。

次に必要なのが、「SNSガイドライン」の整備と配布です。これは就業規則とは別に、具体的な行動指針を示す文書です。例えば、どのような投稿が問題になるのか、実名や顔写真を載せるリスク、勤務先や職務内容を公開することの影響などを、社員が理解できる平易な言葉で説明します。実例を交えた内容にすれば、より効果的です。

さらに、企業としては年に1回程度の「SNSリスク研修」を開催することも有効です。特に若年層の社員はSNSに対するリテラシーに差があるため、ケーススタディ形式でリスクを実感してもらうことが大切です。「何がNGなのか」だけでなく、「なぜそれがNGなのか」を伝えることが社員の納得感につながります。

加えて、社内に相談窓口や内部通報制度を設けることもSNSトラブルの抑止力となります。匿名での通報が可能な体制を整えておけば、問題の芽を早期に発見でき、外部に発信される前に対応できます。

そして忘れてはならないのが、社員との信頼関係の構築です。ルールを押しつけるのではなく、「守るべき企業価値」としてSNSルールを共有し、双方向のコミュニケーションを重ねることが、真のコンプライアンス強化につながります。

SNSはもはや私的なツールにとどまらず、企業活動にも影響を及ぼす公共性の高いメディアです。だからこそ、企業側も「運用の自由」と「秩序の維持」のバランスを取りながら、時代に合った労務管理を行っていく必要があります。貴社の就業規則とガイドライン、今一度見直してみてはいかがでしょうか?

この記事は私が書きました