2025年4月に施行された労働基準法の改正。すでに3か月が経過し、多くの企業では新制度への対応が進んでいますが、実務レベルでは「制度は理解しているが、対応が追いついていない」「一部の部門だけ対応して終わってしまった」という声も聞かれます。

今回の改正は、単なる書面変更ではなく、労働時間管理の在り方や、従業員の働き方全体に直結する内容です。本稿では、今一度確認したい改正内容と、実務対応で陥りがちな盲点について整理します。


1. 中小企業にも完全適用:月60時間超の時間外労働への50%割増

2025年4月から、中小企業にも月60時間を超える時間外労働に対する50%割増賃金の支払いが義務付けられました。

しかし、現場では「そもそも月60時間超えの管理ができていない」「賃金規程が未改定」というケースも少なくありません。人件費負担の増加に悩む企業も多く、そもそも残業を発生させない働き方設計が急務となっています。

今からでもできる対応:

  • 該当社員の勤務実態の把握と見直し
  • 就業規則・賃金規程の明文化
  • 業務の棚卸しと業務移管・外注の検討

2. 勤務間インターバル制度の導入状況は?

インターバル制度(勤務終了から次の勤務開始までに一定時間の休息を確保する制度)は、今回の改正で努力義務化されました。

一部の企業ではすでに導入されていますが、「制度はつくったが周知されていない」「業種的に導入が難しいと放置している」企業もあります。特に交代勤務や深夜勤務が多い業界では、健康配慮義務との関係でトラブルを招くリスクがあります。

今こそ見直し:

  • シフト作成時のルール化(例:原則11時間空ける)
  • 就業規則への盛り込みと従業員への周知
  • 未導入企業への助成金(業務改善助成金等)活用の検討

3. デジタル給与払いの導入は進んでいる?

2023年に制度化されたデジタル給与払いが、2025年に入り徐々に実用化されてきています。資金移動業者を通じた給与の支払いは、特に若年層や非正規雇用者にとって利便性が高く、企業側も対応の柔軟性が問われています。

チェックポイント:

  • 社内での希望調査・合意取得
  • 賃金規程の記載内容確認
  • 不払いや資金トラブルに備えた運用ルールの整備

4. 副業・兼業対応の落とし穴

副業・兼業が当たり前となりつつある今、労働時間の通算管理や健康配慮義務の観点からも、対応が急務となっています。

副業者の労働時間合算は通達レベルでの運用が始まっており、正社員だけでなく業務委託やパートにおいても「知らなかった」では済まされない時代です。

対応の実務:

  • 副業申請・同意書の整備
  • 労働時間の確認手段と記録
  • 健康診断・安全配慮義務の拡張的運用

今、企業に求められるのは「形式ではなく本質的な働き方改革」

2025年の労基法改正は、表面的な制度対応では乗り切れません。残業削減の本質は生産性の見直しにあり、インターバル制度の目的は社員の健康保持にあります。

私たち社会保険労務士は、規程の整備だけでなく、業務プロセスの見直しや助成金の活用、人材戦略と連動した働き方改革をサポートしています。

法改正から3か月、“もう少し落ち着いたら対応しよう”では遅いかもしれません。今このタイミングで、自社の実務が改正法に即しているかを点検し、未対応箇所の洗い出しと改善に着手しましょう。

この記事は私が書きました