新型コロナウイルスワクチン接種会場の運営や、同コールセンター業務を受託した近畿日本ツーリスト。自治体に報酬を請求する際に人件費を水増し請求していたことが明らかになった。
表現がおかしい:人件費の水増し請求?
適切な業務請負(委託)契約において、人件費の水増し請求という言葉が出ること自体が奇妙と言わざるを得ません。業務請負の請求において、従事者の数や労働時間を基準にすることは労働者派遣契約の考え方なんですね。業務請負にあたって、労働者派遣契約に見えるようではこれは“偽装請負”と言います。
コンプライアンス順守の意識の高い事業者であれば、偽装請負を疑われるような契約をすることはあり得ません。
人件費の水増し請求は本当にあったのでしょうか? 結果的に水増し請求に見えるようなことはあったのは事実でも、それが「人件費の水増し請求をしていた」ということにはなりません。まずこの記事を書いた記者の見識を疑わざるを得ません。記事を読むにあたって、鵜呑みにするべきものではなく疑問を抱くことが大切なのです。
あるいは、警察からのプレスリリースなのかもしれませんが、私ならプレスリリース自体を疑います。
そもそも過大請求と言えるのか?
業務請負とは結果に対して責任を負うものです。業務遂行にあたって必要な人員やスキルについて、請け負った側の責任で行うものです。通常、5人で出来ることを3人でやろうと10人でやろうと、その判断は請負側がするべきものであり、発注者が介入すべきではありません。その場合、労働者派遣契約の形をとるべきというのが適切な業務請負のあり方についての考え方となります。
5人で作業をする前提で契約したことを、3人でやったとしても契約どおりの業務が行われていたのであれば当初の契約通りの請求することは何も問題はありません。「結果的に3人で出来たのだから、請求を安くしろ」と強いることは許されません。ましてや、5人分を請求したのが過大だという主張は通りません。
そもそも、人数を前提として契約をするのなら労働者派遣契約に基づくべきです。少なくとも、人数を前提とした請負契約であれば厚生労働省職業安定局需給調整事業課としては問題視すると考えられます。
想定の人数より少なかった場合の対応
5人で従事する想定のところを3人で行なっていたとして、値切るのであれば人数を理由にしてはいけません。3人で行なったことによる落ちた品質について追及するべきです。
会場運営について、人数が少なかったことでトラブルが生じた。待ち時間が想定よりも長くなってしまって行政サービスとして質が落ちた。
そのことで、原因を明らかにし、その原因が所定の人数不足であれば契約不履行を理由に適正な支払いについて協議すべきなのです。ここで人数不足を理由にあげてはならず、あくまで質の低下を理由にしなければなりません。値切るにあたっての計算根拠を不足の人数分とすることは差し支えないにせよ、交渉においては人数を前面にだすべきではありません。
再委託について
近畿日本ツーリストは、この業務について再委託していたそうです。その際、再委託の契約内容との乖離があったそうで、これを過大請求の根拠だと主張しているようです。
再委託なのですから、乖離があっても何も不思議ではありません。再委託先との乖離は、直に請けた委託先は対応すればよく、業務委託契約をそのまま丸投げする方が不自然です。その乖離を直に請けた委託先として責任を負っていたのですから、過大請求とは言えません。
業務委託契約の実績について、人数のみを理由にしてはいけません。人数が少なかろうと、契約を全うしていれば問題はありません。もし、契約を全うしていないと主張するのであれば、人数ではなく実績を示すべきですし、その実績の根拠を人数に求めてはいけません。
この記事は私が書きました
三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。