「うちは副業を認めているけれど、もし副業中にケガをされたら…?」
このような相談が、最近企業の人事担当者から増えてきました。
政府の推進により副業・兼業が一般化する中、“副業先での事故や病気”が本業先に与える影響や責任がクローズアップされています。
果たして、本業の会社は何か責任を負うのでしょうか?
本記事では、社労士の視点から企業が知っておくべきポイントと実務対応策を解説します。
Contents
【1】副業中の労災は「副業先」で扱うのが原則
副業先でケガや病気をした場合、その業務中であれば、副業先の労災保険が適用されます。
つまり、本業側には直接的な責任や労災の支給義務はありません。
【例】
- Aさんは本業で正社員、副業で飲食店アルバイト
- 副業中に包丁で手を切ってしまった → 飲食店の労災が適用される
このように「どちらの業務か」は明確に分けられますが、ここで問題になるのが「通勤途中のケガ」や「過労」に関するケースです。
【2】“過重労働”による健康障害は「通算」される
副業が当たり前になる今、国も労災制度の見直しを進めています。
特に注目されているのが、複数事業所での労働時間の通算制度。
これは、2020年に厚労省が定めた「副業・兼業労働者の労災補償に関する通達」により、副業と本業の労働時間を合算して“過労死ライン(週40時間超)”を判断するというルールが導入されたのです。
つまり、副業と本業を合わせて長時間労働となっていた場合、仮に副業中に倒れたとしても、本業側も因果関係が問われる可能性があるということです。
【3】通勤災害はどちらの業務に属するかがカギ
副業から本業に移動する途中に交通事故に遭った場合、それはどちらの通勤に当たるのか?
これもケースによって判断が分かれますが、「合理的な経路」であれば、労災認定される可能性があります。
企業としては、通勤経路や就労時間の申告を社員にきちんと求める必要があります。
【4】企業としての責任とリスクヘッジ
本業の企業が副業先での事故に対して直接的な賠償責任を負うことは基本的にはありませんが、労働時間管理や健康配慮義務において一定の責任が問われる可能性があります。
企業が取るべき実務対応は次の通りです:
- 副業許可申請制度を設け、業務内容と勤務時間を把握する
- 就業規則に「副業先での労働時間報告義務」「過重労働の禁止」を明記する
- 健康診断や産業医面談を通じて、労働時間状況や体調を把握する
- 副業内容が自社の業務と競合・衝突しないかを精査する
特に「副業を認めるだけで放置している企業」は、最もリスクが高いといえるでしょう。
【5】就業規則に入れておくべきポイント
副業を認める場合、就業規則に以下のような条文を整備しておくことが推奨されます。
- 副業の申請・許可制とする旨
- 勤務時間・内容の報告義務
- 過重労働が発生した場合の是正措置
- 副業先での事故等に関する免責規定
- 本業の勤務に支障が出た場合の指導・制限措置
これらを整備することで、企業として「管理責任を果たしている」ことを証明でき、トラブル時の防御力になります。
まとめ
副業の自由化は時代の流れですが、「自由=放任」では企業の責任が逆に大きくなるリスクがあります。
副業を認めるのであれば、必ずリスク管理と制度設計をセットで行うべきです。
社会保険労務士法人HRMでは、副業制度の導入から就業規則の整備、労働時間管理のアドバイスまで一貫して対応しています。
「副業を認めたいけど不安がある」「既に認めていてルールがない」
そんな企業様は、ぜひ一度ご相談ください。
この記事は私が書きました

三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。