「もう紙の契約書は面倒」「テレワークの社員にもスムーズに対応したい」
そうした声に応える形で、労務書式の電子化(ペーパーレス化)が中小企業にも広がりつつあります。
中でも注目されているのが、「雇用契約書の電子化」。
2020年以降の法改正により、労働条件通知書(雇用契約書)も原則として電子交付が可能となりました。
一方で、「法的に大丈夫なの?」「トラブルのリスクは?」という不安も根強く残っています。
本記事では、雇用契約書の電子化を進める上での法的要件と実務ポイントを、社労士の視点から整理してお伝えします。
Contents
【1】労働条件の明示義務と「電子化」の流れ
労働基準法では、労働者を雇う際、以下のような労働条件を書面で明示する義務があります。
- 労働契約の期間
- 就業場所と業務内容
- 始業終業時刻、休憩・休日
- 賃金の決定・支払方法・締日と支払日
- 解雇・退職に関する事項
この「労働条件通知書」は、以前は紙で交付することが原則でしたが、
2019年4月の法改正により、労働者の同意がある場合にPDFやクラウドでの電子交付が可能になりました。
【2】電子化のための“3つの条件”
雇用契約書を電子化するためには、以下の法的要件を押さえる必要があります。
(1)労働者本人の同意を得ること
一方的に電子交付に切り替えることはできません。
同意は「明示的」に、かつ「撤回できる」形で取得することが必要です。
(2)出力できる状態にあること
電子化した契約書は、労働者が自由に閲覧・出力できる状態で提供する必要があります。
スマホ閲覧のみで保存できないような形式はNGです。
(3)改ざん防止の措置を講じること
電子契約書は、真正性(改ざんされていない)を証明できるような仕組みを導入しておくことが望まれます。
例えば、タイムスタンプや電子署名、契約管理クラウドなどの利用が推奨されます。
【3】電子契約導入のメリット
紙の契約書と比べて、電子化には多くの利点があります。
- 人事・総務の事務工数を削減
- 押印や郵送の手間が不要
- 契約締結までのスピードアップ
- 保管スペースが不要で管理も楽
- 社員本人がクラウドでいつでも確認可能
特に拠点が複数ある企業や、テレワーク・パート社員が多い企業には、業務効率化とリスク軽減の両面で大きな効果が期待できます。
【4】トラブルを防ぐ実務ポイント
一方で、電子化を進める際には以下のような“落とし穴”に注意が必要です。
- 説明不足のまま電子契約に切り替えて、社員が「同意していない」と主張
- 改定後の労働条件通知書を送信しただけで、明示したつもりになる
- 就業規則との不整合が生じ、トラブルの火種になる
これらを防ぐには、「説明責任」と「運用ルールの整備」が欠かせません。
【5】今後は「電子契約」がスタンダードに
2024年の「電子帳簿保存法」の義務化や、マイナンバーカードによる本人確認の普及もあり、今後、雇用契約だけでなく入社書類全体の電子化が一般的になると見られています。
クラウド型の労務管理ツール(例:SmartHR、ジンジャー、人事労務freeeなど)を導入すれば、入社書類から給与明細・年末調整・退職手続きまで一気通貫で電子対応可能になります。
まとめ
雇用契約書の電子化は、単なるペーパーレスではなく、
企業の労務リスクを減らし、社員との信頼関係を築くための重要なステップです。
「契約書をなくした」「内容を見せてほしい」といった社員からの問い合わせにも、即座に対応できる環境が、労務トラブルの未然防止につながります。
社会保険労務士法人HRMでは、電子契約導入の法的アドバイスから、クラウド労務システムの選定・運用支援まで一括して対応可能です。
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この記事は私が書きました

三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。