2021年に施行された「高年齢者雇用安定法」の改正により、企業には70歳までの就業機会確保が“努力義務”として課されました。

また、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、高齢者の就労支援が中小企業の人手不足対策としても重要度を増しています。

しかし実際には、65歳以降の再雇用者に対して「評価制度がない」「給与が一律」「モチベーション管理が困難」といった声が多く聞かれます。

これではせっかくの戦力を活かしきれません。

本記事では、定年延長時代に求められる高齢者雇用制度の設計ポイントを、社労士の視点で解説します。

【1】「継続雇用制度=再雇用一択」では限界がある

現行制度では、原則として定年後も希望者全員に雇用機会を与える必要があります(65歳までの義務、70歳までは努力義務)。

多くの企業では、定年後に「1年更新の有期契約で再雇用する」パターンを採っていますが、ここに大きな落とし穴があります。

  • 給与水準が一律で、過去の実績も反映されない
  • 職務内容が定まっておらず、責任範囲があいまい
  • 人事評価制度が適用されず、“やる気のないベテラン”が生まれる

結果として、若手との間に摩擦が生まれたり、モチベーションの低い高齢社員が企業の生産性を下げる要因になるのです。

【2】なぜ高齢者にも評価制度が必要なのか

65歳を過ぎたからといって、「もう評価なんて要らないでしょ」というのは誤った認識です。

むしろ高齢社員ほど、以下の理由で評価制度の設計と運用が重要になります。

(1) 公平性の確保

若手社員が「なぜあの人は評価されず、ずっとそのポジションにいるのか?」と疑問を持つ構造は、組織全体の士気を下げます。

(2) 労働契約法・同一労働同一賃金への対応

職務が同じであるにも関わらず、根拠なく給与が異なる場合、不合理な待遇差としてトラブルの原因になり得ます。

(3) 戦力化とスキル伝承の促進

評価制度を通じて、「何を期待されているか」「どの分野で貢献できるか」を明示することで、自発的な行動や後進育成が進むようになります。

【3】定年後人事制度の設計ポイント

高齢者雇用制度を設計する際には、以下の観点を取り入れることが効果的です。

等級制度の明確化

再雇用社員向けに簡略化した等級制度を用意し、役割や責任に応じた処遇を設定します。

評価項目の最適化

「若手の指導」「知識の伝承」「安全管理意識」など、高齢社員ならではの価値を評価対象に組み込みましょう。

処遇の柔軟性

評価に応じて給与や賞与にメリハリをつけるほか、本人の健康状態やライフスタイルに合わせた働き方の選択肢(短時間・日数限定など)を提供する企業も増えています。

【4】制度設計は“就業規則の見直し”から

再雇用制度や評価の仕組みを構築する場合、就業規則の変更が必要になります。

多くの企業では、再雇用者に適用する別規程(高年齢者雇用規程)を作成するケースが一般的です。

  • 継続雇用の対象者と基準
  • 評価制度と処遇の関連
  • 勤務条件・更新基準・解雇回避努力義務

こうしたルールを明確に定め、トラブルの芽を事前に摘んでおくことが重要です。

まとめ

65歳以上の社員は、経験も知識も豊富な“宝の山”です。

しかし、それを活かすかどうかは制度設計次第。

「とりあえず雇っておけばよい」ではなく、「どう貢献してもらうか」を企業側が明示し、仕組み化してこそ、双方にとって納得のいく働き方が実現します。

社会保険労務士法人HRMでは、定年延長に対応した人事制度・評価制度の構築支援を行っております。

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この記事は私が書きました