SNSの普及は、企業の広報活動や人材採用に大きな力を与えてきました。一方で、退職者による投稿が企業の評判や法的立場にダメージを与えるリスクも増加しています。

現職社員の投稿リスクに関しては、就業規則やガイドラインで対応している企業も増えてきましたが、退職後の発信内容にまで目を向けている企業は、まだ少ないのが実情です。

今回は、退職者によるSNS投稿の種類と企業に及ぼす法的影響、そして今からできる対策について、社労士の視点で解説します。

【1】退職者SNSが企業にもたらす3つのリスク

退職後の個人によるSNS発信には、以下のような種類があります。

(1) 内部情報の漏洩

「前の職場、サービス残業が当たり前だった」

「機密書類が平気で机の上に置かれていた」

このような投稿は、内部告発と捉えられ、企業のコンプライアンスや労務管理に疑念を持たれる原因となります。

(2) 名誉毀損や風評被害

経営者や上司に対する人格否定的な発言、企業の悪評拡散などが挙げられます。

内容次第では、名誉毀損や業務妨害として法的対応が必要になるケースも。

(3) 顧客や取引先への影響

実名や企業名が出ていなくても、内容やエピソードから「どこの会社か」が推測されることがあり、顧客離れや取引中止につながる危険性もあります。

【2】SNS投稿はどこまで“自由”なのか?

日本の法律では、個人がSNSで意見を述べる自由は憲法上保障されています。

しかし、元勤務先の機密情報を漏らしたり、虚偽の内容で信用を傷つけたりすることは自由の範囲を超えます。

実際に過去の判例でも、退職者による投稿が名誉毀損にあたるとして損害賠償命令が出た例があります。

とはいえ、事後の訴訟は時間とコストを要し、企業イメージにも大きな影響を及ぼすため、“投稿される前に予防する”発想が重要です。

【3】今からできるリスク管理策

(1) 退職時の誓約書を活用

退職時に「在職中に知り得た業務情報や顧客情報を外部に開示しない」ことを明記した誓約書を取得しておくことが有効です。

近年ではこれに加え、SNS上での企業情報の発信に関する注意喚起文を盛り込む企業も増えています。

(2) 情報管理教育の強化

退職直前だけでなく、在職中から情報の取扱いに対する教育や研修を行うことで、個人の意識と理解を深めておくことが投稿抑止に直結します。

(3) モニタリングの強化と初期対応体制の整備

重大な投稿が行われた際に速やかに対応できるよう、広報・法務・労務の連携体制を構築しておくことも重要です。

必要に応じて、弁護士や社労士との連携も視野に入れましょう。

まとめ

退職後のSNS投稿は、企業にとって「制御しにくく、影響は大きい」リスクです。

一見軽い発言でも、企業イメージや信頼、取引関係を大きく揺るがす事態になりかねません。

重要なのは、「起きてから対応する」ではなく、「起こることを前提に備えておく」ことです。

社会保険労務士法人HRMでは、退職時誓約書の整備や就業規則の見直し、情報教育研修の設計まで、SNSリスク対策を幅広くサポートしています。

「うちはそこまで気にしていなかったかも…」と感じたら、今が見直しの好機かもしれません。

この記事は私が書きました