少子高齢化の進行に伴い、働きながら子育てや介護を担う従業員が急増しています。
それに対応するかたちで、ここ数年、育児・介護休業法は段階的に改正されてきました。
たとえば、育児休業の取得推進のための「出生時育児休業(いわゆる“産後パパ育休”)」、男性育休の取得状況の公表義務化、介護休業中の雇用安定策など、企業が守るべきルールは年々複雑になっています。
しかし、多くの企業では制度の改正そのものは把握していても、「実務にどう落とし込むか」という運用面での盲点が少なくありません。
今回は、社労士の視点から、法改正を踏まえた育児・介護休業制度の運用における注意点を解説します。
Contents
【1】制度は“あるだけ”では不十分
「うちにも育児・介護休業制度はありますよ」と胸を張る企業は多いですが、
実際には——
- 従業員が制度の存在を知らない
- 申出をしても「人手が足りないから」と遠回しに断る
- 書類の整備や対応の手順が曖昧で、現場が混乱する
といった状況に陥っているケースが目立ちます。
制度があることと、それを安心して使える環境であることは別問題です。
【2】特に見落とされやすい実務上の盲点とは?
① 「育児休業の分割取得」への未対応
2022年の改正により、育児休業は原則として2回まで分割して取得可能になりました。
しかし、就業規則が旧制度のままになっている企業も多く、社員からの申し出に対応できず、トラブルになる事例も。
② 「産後パパ育休(出生時育児休業)」の手続きが煩雑
この制度では、通常の育休と別に4週間まで取得可能ですが、**取得タイミングや申請期限(原則2週間前)**を社内で正しく理解していないと、申請を拒否してしまうことも。
③ 介護休業と介護休暇の混同
「介護休業」は最大93日までの長期休業、「介護休暇」は年5日(2人以上なら10日)の短期休暇。
この違いを知らずに対応すると、法定日数を下回る制度設計になっている恐れがあります。
【3】企業がとるべき対応策
● 就業規則・育児介護休業規程の見直し
法改正に対応した文言に更新されていない場合は、規程違反の状態です。
とくに「分割取得」「パパ育休」「再取得」などの条件を反映しておきましょう。
● 対象者への制度説明と周知
「知らなかったから取得しなかった」を防ぐため、該当者が出た段階での説明資料の整備が必要です。
eラーニングや社内マニュアルも有効です。
● 管理職への対応研修
制度を形骸化させる一番の要因は、現場上司による“忖度型ブロック”。
「休まれたら困る」「代替がいない」は言い訳にならない時代です。管理職への教育が制度定着のカギとなります。
【4】助成金の活用も視野に
企業が積極的に育児・介護休業の取得を支援する場合、以下の助成金が活用できます。
- 両立支援等助成金(育休取得時・職場復帰時)
- 介護離職防止支援コース
→ 対象者への制度説明や復帰プラン策定など、制度活用と連動した実務を行えば助成対象になる場合があります。
まとめ
育児・介護休業制度は、「あるだけ」「書いてあるだけ」では不十分。
従業員が“安心して使える制度”であってこそ、真の両立支援企業と言えます。
法改正への対応だけでなく、社内ルールの整備・現場マネジメントへの落とし込み、さらには助成金の活用まで、総合的な視点で見直すことが今後の人材定着に直結します。
社会保険労務士法人HRMでは、育児・介護休業制度の見直し、就業規則の整備、管理職向け研修、助成金申請までワンストップで支援しています。
「制度はあるけど、運用がうまくいっていない…」そんな時こそ、どうぞご相談ください。
この記事は私が書きました

三重県出身。工場の派遣バイトの傍ら社会保険労務士の資格を取得。中途採用で地元商工会議所勤務を経て、労働局の窓口業務を通して様々な事例を経験。 非正規就労の悲哀と行政の仕組みを熟知しているシナジー効果を強みとし、皆様のサポートをいたします。