従業員を新たに雇用したときに必ず交付すべき「労働条件通知書」。

これまでは紙での交付が一般的でしたが、法改正やデジタル技術の進展により、電子交付が正式に認められる時代に入りました。

2024年4月の労働基準法施行規則の改正により、一定の条件を満たせば、労働条件通知書も電子メールやクラウドを通じて交付可能となっています。

本記事では、「電子化の概要」「実務上の注意点」「企業にもたらすメリットとリスク」について、社労士の視点からわかりやすく解説します。


【1】労働条件通知書とは?

労働条件通知書とは、労働者を雇う際に会社が書面で交付する義務のある法定書類です。

最低限、以下の事項を明記しなければなりません(労基法第15条)。

  • 雇用期間
  • 就業場所・業務内容
  • 始業・終業の時刻、休憩・休日
  • 賃金の決定方法・支払い時期
  • 解雇の事由 など

これまでのルールでは、「書面での交付」が原則でした。


【2】電子化が可能になった背景と条件

2024年4月の改正により、労働条件通知書は電子的な方法でも交付可能になりました。

ただし、電子化にあたっては以下のような条件が必要です。

労働者本人の同意が必要

一方的に電子交付するのはNG。「電子交付でよいです」との本人同意を事前に取得する必要があります。

書面と同等に確認可能な形式であること

PDFなど、保存・印刷が可能なファイル形式であり、内容が変更されないものでなければなりません。

適切なセキュリティ対策

アクセス制限・ログ管理など、個人情報保護の観点からの配慮も必要です。


【3】企業にもたらす3つのメリット

労働条件通知書の電子化は、単なる手間の削減にとどまらず、企業の業務効率化や法的リスクの軽減にも寄与します。

ペーパーレス化で業務効率アップ

紙の出力・封入・郵送・保管の手間が不要になり、総務・人事部門の作業が大幅に効率化されます。

管理履歴の可視化

クラウド型の労務管理システムを活用すれば、「誰がいつ確認したか」「変更前のデータは何か」など履歴の透明性が保たれます。

紛失リスクの回避

紙では起こりがちな「原本紛失」や「書き間違い」を防ぎ、証拠性の高いデータ管理が可能になります。


【4】注意すべき落とし穴

一方で、電子化における落とし穴も存在します。

  • 本人同意が形骸化している(例:内定通知の段階で強制的に電子化)
  • PDFのファイル名がバラバラで管理不能に
  • 修正履歴が残らない状態で一方的に更新される
  • パートや高齢者など電子機器に不慣れな労働者への配慮不足

これらの問題を避けるためには、**クラウド型の労務管理システム(例:SmartHR、ジョブカン労務など)**の導入と、社内フローの整備が不可欠です。


まとめ

労働条件通知書の電子化は、これからの労務管理において避けて通れないテーマです。

ただし、「便利になる」一方で、適正な運用ルールが伴っていなければ、逆にトラブルの火種となりかねません。

社会保険労務士法人HRMでは、電子化対応の就業規則の見直し、クラウド労務システム導入のサポート、電子同意取得の実務設計までトータルで支援しています。

「そろそろうちも電子化したいけど、何から始めれば?」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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