労働者には、真実の経歴を告知すべき義務があるのか? 人に言いたくない過去の1つや2つは誰しもあるのではないでしょうか?

一般論として、偏見というものは決してなくならないでしょう。ごく些細なことでも拡大解釈されてしまうことも多いです。

真実の経歴を伝えることで、チャンスすら閉ざされることも多いです。すでに完治した病気をいつまでも囚われてしまうのも如何なものでしょうか? 自分自身、克服した過去ならば、その過去を明かすことは結果的に囚われたままになってしまいます。

過去を克服することは、経歴詐称なのですか?

実際にあった判決について、判旨の一部を抜粋します。

東京高裁平成3年2月20日

雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接かかわる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべきである。

病歴 大阪地裁平成19年7月26日

電気工事設備工業を営む会社に採用されたXは、入社する際、健康診断や面接を受けたが、椎間板ヘルニアの既往症のことを会社に告げなかった。

この情報は、業務に重量物を運んだりする業務も予定されており、採用予定者の健康や身体状態に関する重要な情報である。

もっとも、会社が、既往症の有無について尋ねたことはなく、また、Xが入社後八か月余、問題なく、業務に従事してきたことを併せ考えると、Xが面接時などに既往症のことを告げなかったことをもって、就業規則にいう虚偽申告ということは困難であり、解雇事由とすることは困難である。

 

この場合、八か月余り勤務していた事実は大きいように思われます。また、もしも椎間板ヘルニアの既往症が影響して労災事故が起きた場合ですが、安全配慮義務についてどこまで問われるのかは労働安全衛生の部署と確認を密にする必要はあると考えられます。

しかし、就業規則に「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」のような規定をうたうことの重要性は変わらないと思います。

この記事は私が書きました