懲戒解雇は、労働契約の一方的な解約であるとともに、労働者の企業秩序違反行為に対する制裁としての性質を有します。

他方、労働者に原因がある普通解雇は、労働者が労働契約の債務不履行状態にあることをとらえて労働契約を終了させるものであり、法律上は制裁としての性質を有していません。

このように、懲戒解雇と労働者に原因がある普通解雇は、“制裁”という性質を有しているかどうかの違いがあります。

制裁は恣意的な運用をしてはならない

また、懲戒解雇事由は限定列挙、普通解雇事由は例示列挙(東京地裁平成19年9月14日)とされています。

限定列挙すなわち就業規則には1つ1つ細かく記載しなければなりません。記載のない事柄で、懲戒を行うことは出来ません。一般常識という概念は通用しません。よそで実際にあった同様の事例を持ち出すこともできません。あくまで貴社の就業規則に記載があることのみが大切なのです。 いずれも包括的定めを置くべきです。

例示列挙ですと、限定列挙よりは融通が利くのですが、あまりに簡素な例示では「客観的に見て伝わりづらい」と判断される恐れはあります。労使間の紛争に備えるための就業規則ですから、就業規則に精通した専門家の意見を交えてお作りするとともに、いろんな意見を聞きながら適宜改定していくことが大切になります。

そのため、条文としては膨大になることも多々あります。実際、そのような就業規則を設ける事業者も多いです。そのため、実務的には就業規則の本体とは分離した懲戒規定を設ける事業者もいます。

【事案の概要】大阪地裁平成8年12月25日

学校の教師が生徒に体罰し、マスコミ報道され、非難の封書などが学校に届き、学校が信用失墜の損害を被ったとして、教師を懲戒解雇
就業規則の懲戒解雇事由「故意または過失によって職務に支障を生じさせ又は学園に損害を与えたとき」に該当すると主張

【判旨 判決の要約】普通解雇として有効
本件事件が新聞報道されて抗議の手紙等が殺到したこと等それ自体が、「学園に損害を与えた」とまで言えるかどうかは、いささか疑問なしとしない。
本件事件に基づく本件懲戒解雇が前期のとおり無効だとしても、それは懲戒処分の程度が懲戒事由比して重きに失するというにすぎず、原告が、本件事件という懲戒事由を惹起したことにいささかの変動もないのであるから、被告が、本件懲戒解雇が無効とされた場合に備えて、原告の雇用者の立場から改めて本件事件を理由に通常解雇に付することを禁止する理由は見出し難い。
普通解雇事由「その職に必要な適格性を欠く場合」に該当し、解雇は有効と判断。

 懲戒解雇の場合は限定列挙ですから、拡大解釈の余地は比較的狭いと言わざるを得ません。と同時に、普通解雇の場合は例示列挙ですから、例示としてはその「故意または過失によって職務に資料を生じさせ又は学園に損害を与えたとき」にはあてはまるということですね。

懲戒解雇をするときに弁明の機会を付与すべき?

東京地裁平成15年10月9日

【判旨の一部】
懲戒解雇が懲戒処分の極刑であり、通常は何らの対価もなく労働者に雇用契約上の地位を失わせるものである上、再就職の重大な障害ともなり得ることを考慮すると、懲戒解雇の適否について公正な決断をするためには、就業規則等に特段の手続規定が定められていなくても、懲戒事由に該当する具体的事実を被懲戒者に告げて弁明の機会を与え、その事実の有無のみならず、動機、態様、懲戒事由該当性についての本人の認識等について明らかにすることが最低限必要であると解される。


懲戒解雇をするときに弁明の機会を付与する規定を置いた方が良いことが窺えます。どのような形で労働者の弁明を残し、その弁明を踏まえての処分を下す。その手続きに不自然な点がないのであれば、使用者側としても反論はできるでしょうけど、ないとあっては処分としては不適切と判断され、懲戒後で紛争になった際に不利になると思われます。

この記事は私が書きました