我が国では、労働者の立場は手厚く保護されており、会社は容易に労働者を解雇することはできません。

また、労働者を解雇する場合、解雇予告又は解雇予告手当の支払い等の適正な手続きをしなければなりません。通常の解雇でさえハードルが高いのですから、ペナルティとして行う懲戒解雇は、よほどの特別な事情がなければこれを行うことはできないといえます。

そこで、重要になってくるのが就業規則です。

まずは、懲戒解雇の前提となる懲戒処分を見てみたいと思います。

Ⅰ懲戒処分(懲戒処分の根拠)関西電力事件 最一小判昭58.9.8 労判415-29

【事案の概要】

(1) Xは、Y社の尼崎第二発電所に勤務する従業員であり、かつY社の従業員で組織される労働組合の組合員であった。
(2) Xは、勤務時間外にビラを尼崎地区のY社社宅に配布したところ、本件ビラ配布行為が就業規則の懲戒事由に該当するとして、Y社から譴責の懲戒処分を受けたため、Xは、懲戒処分の無効などを主張して訴えを提起した。
第一審は、本件譴責処分は無効として請求を認容した。控訴審は、本件譴責処分は適法であり有効であるとして控訴を認容した。
【判旨 判決の要約】上告棄却
(1)労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い・・・職場外でなされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される。
(2)本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成し企業秩序を乱し、又はそのおそれのあったものとした原審の認定判断は・・・違法があるものとすることはできない。
Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるY社の従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものであるが、前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ・・・裁量権の範囲を超えるものとは認められない。

  • 懲戒処分の行使のために必要条件

フジ興産事件 最二小判平15.10.10 判時1840-144、労判861-5

【事案の概要】

(1)設計業務に従事していた労働者Xは、得意先との間でトラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したとの理由で、新たに実施された就業規則に基づき、懲戒解雇された。
(2)Xは、懲戒解雇される前に、Y社に対して適用を受ける就業規則について質問したが、この際に旧就業規則は職場に備え付けられていなかった。そこでXは、懲戒解雇される事実が発生した時にY社には就業規則が存在しなかったこと等から本件懲戒解雇は違法・無効であるとして、従業員たる地位の確認及び未払い賃金等の支払い等を求めて提訴した。
 
原審(第2審)は、新就業規則ではなく、旧就業規則がXに適用されるものとの判断を前提に懲戒解雇を有効と判断したため、Xが上告した。
 
【判旨 判決の要約】労働者側勝訴(破棄差し戻し)
 
(1)使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである。
(2)Y社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを行政官庁に届け出た事実のみならず、その内容を当該事業場に勤務する労働者に周知させる手続きが採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇を有効と判断することはできない。したがって、原判決を破棄し差し戻す。

【まとめ】

(1)使用者は企業秩序を定立し維持する権限(企業秩序定立権)を有し、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができる。

(2)使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならない。

(3)使用者が懲戒できることを定めた就業規則が、法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容について、当該就業規則の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていなければならない。

この記事は私が書きました