御社の労務管理に、労働者派遣法の考え方を取り入れて可能性を広げます。社会保険労務士法人HRMの森井拓也です。

派遣労働者は、同じ職場(注1)に3年を超えて派遣されることを制限しています(注2)。

では、派遣元が変更となって同じ職場に派遣される場合はどうなるのでしょう?。この質問をいただいた場合、正直ちょっと回答に困るのです。

派遣元が変わったことで抵触日の制限がリセットされるなんてルールはない

ただ、派遣元としては、当該派遣労働者の過去を知る立場にない(一般的には履歴書や職務経歴書を求めるわけですが、雇う際の義務とまでは言えません)わけですから、抵触日の制限をリセットされてしまうことはありうることといえます。派遣元としては、派遣労働者へ交付する就労条件明示書には、抵触日は通常通り3年と書かれることになるでしょう。

冒頭「回答に困る」との理由は、結局は派遣先が関係してくるのです。

転籍後の派遣元は、適切な手順通りに「派遣先通知書(労働者派遣契約に基づいて派遣される人物を通知するもの)」を派遣先に渡すわけですが、この時に派遣先は過去の派遣労働者リストから同一人物と気づいてそのことを派遣元に通知しなければならないことになります。

来る予定の派遣労働者について、過去の就労履歴を確認しよう

実は、派遣先としてはこの種の確認は非常に重要でして、別件になるのですが「過去1年以内に(1日でも)就労歴のある派遣労働者は受け入れできない(注3)」法律があります。ですので、派遣元から受け取った派遣先通知書に記載された名前は、過去1年の退職者を照合しなければならないわけです。

そういった事情から、もしその「派遣労働者として、過去(3か月以内)に同じ職場にいた」「1年以内に退職した」ことの確認を、派遣先は当然に行なっているものとの前提となっていて、その確認をとれれば派遣元へ通知されるはずです。その結果を受けて、派遣就労のキャンセルや抵触日が短くなるといった取り扱いがなされます。

派遣元が変わったことで抵触日がリセットされるなどありえないとなります。そうは言っても、派遣先がその確認をしていなければ、抵触日はリセットされてしまう現実は否定しようがありません。……ですので、冒頭の質問は「回答に困る」のです。

派遣先がその確認をしなかったらどうなる?

まず大前提として、派遣先に非があることは明らかです。派遣労働者を受け入れる以上、このことは「知らない」では済まされません。派遣元としては許可事業者として、このことは派遣先をサポートしてあげればとは思いますが、最終的には派遣先の責任です。

この状況でもし、派遣労働者自身がおかしいと主張すれば労働者派遣法の定めに沿った展開が繰り広げられることになります。派遣先の同じ職場で通算して3年の時点で、派遣先は当該派遣労働者に直接雇用を申し込んだとみなされるわけですから、その申し込みを受け入れる形で当然に派遣先への直接雇用という展開になるわけです。

もっとも、当の派遣労働者がそのことに気づかなければ何も起こらないでしょう。関係者みんなが3年の抵触日を信じ込んでいるのなら何事も起こりません。

とはいえ、法35条の2に、派遣可能期間の制限を抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行った者には、罰金刑の適用がなされる規定があります。派遣元としては、派遣先からの通知がなければ知りようがないとはいえ、派遣先には派遣先通知書で示した人について確認が必要なことを伝えましょう。派遣元にも、罰則の規定はあることを踏まえた行動をお願いします。

一般に、罰則の適用までには指導などが入りますから即座に罰金刑ということはないでしょう。しかし、派遣元派遣先ともに、「知った」以上は即座に改めなければ法違反になるのは言うまでもありません。

(注1)正確には、組織単位という概念があります。一般的には“課”レベルを指しますが、その長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有している状況を想定しています。課と言えども権限が全くない場合もあれば、ごく少人数ながら独立した活動をしている場合もあるわけでして、ケースバイケースとされています。

(注2)派遣社員が同じ組織で3年を超えて働くことはできないと定められています。これがいわゆる「3年ルール」です。

(注3)派遣法第40条の9第1項により、離職後1年以内の労働者を元の勤務先企業が派遣労働者として受け入れることは禁止されています。同じく派遣元も、派遣法第35条の5によって、派遣労働者の就業先が離職して1年以内の企業とわかったときには労働者派遣をおこなってはならないとされています。

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