世間的に言えば、労働者派遣事業はピンハネ業者だという偏見があることは否めません。しかしその実、許可事業に一本化された労働者派遣事業において、今となってはもはや単なるピンハネでは運営は困難です。許可を所管する厚生労働省からは、業務運営要領が公表されており、これに従った適切な運営であることが求められています。

また、顧客である派遣先へ労働者を送り込むだけのビジネスモデルでは、全国展開している名の知れた業界大手の会社との差別化は難しいでしょう。現に、派遣労働者の大半は、そのような名の知れた会社に所属しているわけですし、そもそも人材派遣という言葉からイメージ出来る会社名はさほど多くないのではありませんか?

同じ人材ビジネスを営む立場として、派遣労働者を確保することが業界大手と同様の手法では太刀打ち出来るでしょうか?

付加価値とマージン率について

業界大手にはない特徴を打ち出すにあたって、一事業者としてどのような付加価値を創出できるのか?。高い付加価値を設定できれば、高い利益率(マージン率)を設定できるはずです。

人材ビジネスもまた、ごく通常のビジネスの1つであるならば、高いマージン率を否定する根拠はないのですが・・・。労働者からのピンハネを罪悪視する考え方から、マージン率については許可制の立場から監視対象になっています。

高すぎるマージン率は許可されない?

許可申請において、派遣料金と賃金の比率を記載することになります。

マージン率、つまり(派遣料金-賃金)÷派遣料金が高すぎると、理由を問われます。どの程度の割合を高すぎると判断するかについて、その基準は非公表とされていますが、内情が漏れ伝わる形で知っている方もいるかと思います。

許可申請を代行する方の中には、さも極秘情報を耳打ちするように勿体つけて説明いただけるかもしれません。労働局ともめたくない一心で許可を受けたいあまり忖度する傾向はあるようですが……。私は敢えて、その数値は言いません。労働局が想定する値を超えていたとしても、正々堂々と理由を説明すればいいからです。

人材ビジネスとして、その運営スタッフ(派遣元責任者やコーディネーターと呼ばれる人たちです)が、高い付加価値を生み出すこと自体は非常に素晴らしい経営努力といえます。

派遣労働者の価値を高める努力をしたのは誰ですか?

もともと高いスキルを持ち、高い実績を出せる派遣労働者も多くおられます。この場合、自分自身で自分の価値を高めたわけですから、価値に相応しい報酬を得る権利があるはずです。

それとは別に、労働者派遣事業許可をもつ事業者自身の信用から生み出される付加価値もあります。あるいは、優れた研修制度やや教育環境を提供することで生み出される付加価値もあります。

いわゆるコーディネーターの方たちが、営業努力によって仕事を獲得してきた場合もあります。または、派遣労働者自身が気づいていない価値を見出して、積極的に売り込んでいただけた場合もあるでしょう。

自分の賃金と派遣料金の差について何を感じますか?

労働者派遣事業の運営において、マージン率の情報公開が義務付けられています。

自分自身のこととして、派遣料金がものすごく高額だと知った時、いろいろな思いがよぎりますよね。

仕事内容にもよりますが、自分自身の得意分野で高度な仕事を特別にご提供いただけているのなら、自分自身の価値を高めてくださっているわけですから、むしろ非常にありがたいことだと感じます。

そしてもし私に出来るなら、他の誰かについて価値を見出し、その価値に高い派遣料金を示して双方合意に至るのであれば本当に素晴らしいことだと思います。

このように、派遣料金と賃金に著しい差が生じることそれ自体を、一律的に罪悪視するものではないと考えます。現に、高すぎるマージン率で許可申請が却下されるといったことはありません。あくまで「理由の説明」を求められるにすぎないのです。

マルクス主義の信奉者?

とは言うものの、労働局の職員も人間であり、思想は様々です。マルクス主義の信奉者のような旧態依然の人間がいないとも言えないでしょう。「中間業者のマージンを全て悪」という考え方ですね。労働者の味方を標榜する共産主義思想からすれば、そうなるのでしょう。いかなる説明にも一切耳を傾けない。そして、彼らには権限があります。

ここまでマージンを絶対悪とする職員は、少数かもしれませんが、出くわすことはありえます。労働行政に携わるその立場上、マージンの全てを断固許さないと意固地になってしまっている方もいるかもしれません。

労働者派遣事業をコンサルティングする立場としては、このような誤ちには毅然と立ち向かうべきだと考えます。人材ビジネスの担い手として、創出した付加価値についてご納得いただくよう努める必要はあるでしょう。

この記事は私が書きました

Category